巨大な代ゼミが凋落した理由 その1
代ゼミ講師となった私は、驚くことの連続でした。
まず、講師室。
講師室に入って席に着くと、講師室係の女性がうやうやしくおしぼりと、おいしいお茶を出してくれます。
お昼は、講師室で好きな店屋物をとることができます。
店屋物をとるといっても、講師室係の女性が丁寧に注文を聞きに来てくれるので、食べたいものをメニューから選んで伝えるだけです。
そして、当時はこれがなんと無料だったんです!
私は大学を卒業した後、最初は民間企業でサラリーマンをしていたので、代ゼミの講師に対するそのような丁寧な扱いが大変な驚きでした。
民間企業の場合、新入社員は当然一番下っ端なわけで、会社に行っても、うやうやしくお茶を入れてもらったり、おしぼりを出してもらったりすることはありえません。
それが、代ゼミでは講師であるというだけで、何の実績もない入りたての新人講師に対して講師室専属の係りの人たちがこの上なく丁重に扱ってくれるのです。
私は、戸惑いながらも、そのような丁寧な扱いに次第に慣れていきました。
講師室でもう一つ私が、カルチャーショックを受けるほど驚いたのはスター講師と言われる人たちの存在です。
フェラーリに乗り、ルイヴィトンのボストンバッグを持ち、ブランド物の服で身を固めたスター講師はまるでオーラを放つ芸能人のようです。
休み時間ともなれば、スター講師の机には、質問をしようとする生徒の長い行列ができていました。
いや、正確に言えば、それは、質問をしようとする生徒の行列ではありませんでした。
行列に並んでいる生徒の順番が来ると、そのスター講師は、「君は握手?サイン?」と聞いているのです。
行列に並んでいる生徒の中には、もちろん質問をする人もいたのでしょうが、大半は、そのスター講師を一目見たい、握手をしてもらいたい、そして、テキストにサインと励ましの言葉を書いてもらいたいと考えている人たちだったのです。
そして、そのスター講師は、授業で派手なパフォーマンスをすることでも有名でした。
学期の最終回の授業ともなると人気アニメの着ぐるみを着た格好で登場し、そのアニメのテーマソングを熱唱するのです。
授業で派手なパフォーマンスをするのはその講師だけではありませんでした。
教室にミュージックプレイヤーを持ち込み当時はやりのブレイクダンスをする人、男性なのにお笑い芸人顔負けの紫や赤の派手なスーツで登場する人、元暴走族の肩書を持ちリーゼントの頭髪で様々なネタ話を披露する古文講師など、枚挙にいとまがありません。
一方、私はというと、代ゼミに来る前は、一橋学院という高田馬場にあるかなり地味な予備校で地味に講師をしていたので、そのような世界を全く知りませんでした。
「これは大変なところに来てしまったな」というのが当時の私の偽らざる心境でした。